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Reichenauer – Concertos II 18世紀プラハの超絶技巧協奏曲集

/ 更新日: 2014年1月6日
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モーツァルトでは醸せなかった叙情

録音は素っ気なくて、こちらに向かって来ない。第一印象がそれでした。オーディオファイル向きではないが封を切ったのが昨日の深夜で、小音量で視聴を始めたからだった。改めて昼間の普通の音量で聴いてみると、適切な距離感の音像を結んだ。しかも大音量で耳障りはない。そう言う意味ではオーディオファイルとしても面白いところ。
ライヒェナウアーは18世紀のプラハの作曲家で、バッハやヘンデルがまだペイペイだった年代に活躍。後にヨーゼフ・ハイドンが仕えたことでも知られるモルツィン伯のチャペルの音楽家であり、ヨハン・フリードリヒ・ファッシュの後任としてお抱え作曲家の役割を引き受けました。そのためか、広い空間を音楽の一分に活かす術が巧みなのだ。演奏法に空間の効果を含めた『超絶技巧協奏曲集』と言い換えてもよさそうです。
モルツィン伯はまたヴィヴァルディを「イタリア音楽の巨匠」として雇い入れていますが、いかにモルツィン伯の楽団の演奏水準が高いものであったかは、ヴィヴァルディが今風に云えば「スーパー・ヴィルトゥオーゾ・オーケストラ(virtuosissima orchestra)」と呼び、自作の協奏曲をいくつか献呈していることなどからも明らかで、ライヒェナウアーも同様にモルツィン伯の期待と要求に応えるべく高度なテクニックを要する作品を手がけています。
楽団員の技量が反映して作曲されている協奏曲集だから、モーツァルト以降の作曲家のジレンマがライヒェナウアーの作曲の筆には無い。粋で気持ちの良い音楽揃いです。ソナタと管弦楽組曲を挟んでソロ楽器の協奏曲が選曲されていますが、スーパー・ヴィルトゥオーゾ・オーケストラのソリストのために作曲された協奏曲は頭抜けています。
ライヒェナウアーの協奏曲を一枚まとめて聴いた経験がなかったので、他に比較する材料がありませんがオーボエ協奏曲とヴァイオリン協奏曲が素敵です。ベルリン古楽アカデミーのメンバーとしてもおなじみのオーボエ奏者ルイーズ・ハウクのテクニックにふさわしい音楽です。
他の演奏家でも聴いてみたい思いにさせられたのが『ヴァイオリン協奏曲』で、中間楽章のアダージョはモーツァルトにも醸せなかった叙情がある。近い所では、『魔笛』の絵姿のアリアや、パミーナの不安を表現するアリアにようやく現れてくる位で、まだまだモーツァルトの経験では到達できていない世界、あるいはモーツァルトの習性として作り出せなかった音楽なのかもしれません。

指揮:
マレク・シュトリンツル(芸術監督)
アンサンブル:
ムジカ・フロレア
演奏者:
ルイーズ・ハウク(バロック・オーボエ)、ヤナ・ヒティロヴァー(バロック・ヴァイオリン)、マレク・シュペリナ(バロック・フラウト・トラヴェルソ)、マレク・シュトリンツル(バロック・チェロ)
曲目:
2つのトランペット、ティンパニ、チェロ、弦楽と通奏低音のためのソナタ
オーボエ協奏曲 変ロ長調
チェロ協奏曲 ニ短調
2つのオーボエ、ファゴットと弦楽と通奏低音のための組曲 変ロ長調
ヴァイオリン協奏曲 ト長調
フルート協奏曲 ト長調
作曲:
アントニーン・ライヒェナウアー Antonin Reichenauer (c.1694-1730)
録音:
2010年2月5-6日 プラハ,ドモヴィナ・スタジオ(デジタル・セッション)

Label: Supraphon
Catalog#: SU 4056-2
Country of disk : Czech Republic
Genre: Classical, Baroque
Released Date: 2011
Format: CD
Timing: 63:40


CD: http://amzn.to/10eGD4D

初期盤・クラシックレコード専門店「RECORD SOUND」
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