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Zemlinsky – Sinfonietta, The Mermaid – Judd

/ 更新日: 2015年3月9日
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ぐじゃっぺな男な、あぁた

人間の王子の恋をした人魚姫の悲しい物語に沿って音楽化された、映画音楽を聴いているようです。見た目重視の感覚にはフィットするんじゃないかしら。
助けられた人間の王子に片思いした人魚姫が、王子の結婚を知って刺し殺そうとするが果たせずに、シャボン(空気の精)になって天国に昇るという悲劇が、詩情豊かな音楽によって描かれている。
デンマークの童話作家、ハンス・クリスティアン・アンデルセン(1805〜1875)の誕生日が、4月2日です。有名な童話なので、これを元にした音楽も少なくないだろうと思うのだが、全くと言って良いほど無い。「くるみ割り人形」や「ヘンゼルとグレーテル」はクリスマスのお話だし、お雛祭りや端午の節句に良い感じのクラシック音楽のプログラムは組めないかと集めたCDの一枚。

聞いてたまがった。お伽話や子供向けのアニメ的な音楽よりは、渦巻く波間に何かが見えるような音楽で始まる本格的な大人向きメルヘン。韓流ドラマでBGMに使われていても、110年前のクラシック音楽だとは気が付かないでしょう。

最初に聴いたリッカルド・シャィイーの録音は、当時のCDとしてずば抜けたダイナミックレンジでした。ツェムリンスキーはシェーンベルクの先生で室内楽は知らなかったわけじゃない。管弦楽曲で《人魚姫》があったのは知らなかった。どうも3つの楽章の楽譜がひとつに揃うのに初演から80年もかかったのだそうです。これも戦争が引き裂いた悲劇でしょうか

ツェムリンスキーはシェーンベルクの先生というか、シェーンベルクが12音技法を発想するきっかけを与えた兄弟でした。だからよっぽどな難曲のイメージがありましたが、それはフランス近代音楽の影響が濃い晩年の作品で《人魚姫》はデビューの後押しをしてくれたブラームスを発展させた解りやすい和声で、よりロマンティックです。

アンデルセンと言えば「みにくいアヒルの子」があります。シェーンベルクが兄だから、ツェムリンスキーの交友も広く、弟子にアルマ・シンドラー、ウォルフガング・コルンゴルドがいました。それらを位置づけるとツェムリンスキーの音楽がしっかりと見えてきます。肖像で見る限り、ツェムリンスキーは『ぐじゃっぺ』ではないようですが、見た目は貧相かな。弟子のアルマ・シントラーに恋しますが、ツェムリンスキーに国際的な知名度がないことや、容姿の醜さばかりが目に付いたから『不細工だと思う』とアルマに言われます。これには『まいった』ツェムリンスキーは死ぬまでトラウマとなったでしょう。結局アルマは、マーラーと結婚します。それが1902年のことで、1903年作曲の《人魚姫》(1905年、ウィーン初演)には悲恋を思い出にしようとした感じがします。3楽章の《シンフォニエッタ》は、《人魚姫》から30年後、名声もあり29歳年下のルイーゼと幸福な結婚生活の中で作曲されているので、モダンでシニカルな表情が曲は短いながらも多彩に現れては消える秀作です。

ジェームス・ジャッドのCDは、シャィイーから30年近く経っていて、新鮮さを感じさせる必要もなく。この間にいくつも録音や演奏が行われているので、指揮者もオーケストラもエンジニアも手に馴染んだ演奏になっています。今ではCDが沢山あるので、80年間忘れられていたとは思えません。

作曲家:
Alexander Zemlinsky (1871-1942)
曲目:
  1. Sinfonietta, Op.23(1934) 22:01 [ 9:02 / 7:15 / 5:29 ]
  2. Die Seejungfrau ( The Mermaid ) – Symphonic Fantasy (1903) 41:06 [ 15:30 / 11:54 / 13:27 ]
レーベル:
NAXOS
Catalog #
8.570240
指揮:
James Judd
オーケストラ:
New Zealand Symphony Orchestra
Recorded at
Michael Fowler Centre, Wellington, New Zealand, 6-8 June 2006
Producer and Engineer :
Tim Handley
ドイツ
Release :
2009


CD: http://amzn.to/XSceaB

初期盤・クラシックレコード専門店「RECORD SOUND」
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